ご存じのように、水素は宇宙に存在する最も豊富な元素で、すべての生命体に不可欠です。木星を構成するガスの70%を含め、宇宙の質量の75%を水素が占めていると推定されています。これはまた、太陽が膨大な量のエネルギーを生成するための主要な核融合燃料でもあります。地球上では、大気中で3番目に多い元素数となります。水素と酸素が化合すると、地球上のすべての生命体に不可欠な水(H2O)が生じます。また、炭素と結合することで、燃料からプラスチックやゴムに至るまで、現代の多数の必需品の製造に用いられている様々な有機化合物が形成されます。
公式には、水素は1766年にヘンリー・キャヴェンディッシュ(Henry Cavendish)によって発見されたことになっていますが、これよりもほぼ100年前から、多くの科学者によって偶発的に生成されていました。それ以来、水素ガスは多くの用途に使用されてきました。工業用の製造や処理では、水素ガスは自動車用燃料電池や化石燃料の処理、アンモニアの生成、またはアーク溶接におけるシールドガスとして、または発電機のローター冷却剤として、さらにはロケット用燃料として使用されています。
ラボにおける分析&研究
あまり知られてはいませんが、水素はGC(ガスクロマトグラフィー)のキャリアガスとしても使用されます。これは、従来からGCのキャリアガスの第一選択肢となってきたヘリウムの代わりとして、最近また好まれるようになってきたアプローチです。水素ガス発生技術がより広く利用可能となったことと、ヘリウム不足によりそのコストが上昇したことが相まって、水素ガス発生手段が次第に現実味を帯びた選択肢となってきています。これに加えて、発生装置により、GC装置に必要な量の水素ガスを一貫して安全に供給することができ、ヘリウムよりも最適速度が高いことから、多くの場合、分析時間を短縮することが可能となります。水素とは異なり、ヘリウムは有限資源で、これは採掘する必要があります。したがって、需要と供給により価格が決まるため、入手の可否と価格の安定に対する不確実性を招くことになります。
技術と正当性
水素ガス発生装置を支える技術は、経時的に進化しました。最初のモデルはそれほど精巧ではなく、水素ガスを生成するには、多くの場合、ユーザーが発生装置に苛性溶液を追加する必要がありました。これでは、実用的でないばかりか、安全面でも問題があります。しかし、数十年の開発プロセスを経て、技術が著しく進化しました。今日、ラボで使用する水素は、一般的にプロトン交換膜(PEM)電池を利用して、脱イオン水の電気分解により生成されます。そのため、発生装置の操作において、ユーザーが危険物質を処理する必要性が低下しています。
ラボの主な関心事は、分析での水素の使用におけるメソッドを再検証することです。標準作業手順を満たすための要件として運営組織が課している場合もあることから、その多くにはキャリアガスとしてヘリウムのみが指定されています。つまり、キャリアガスを変更するにはまず検証が必要であるということです。これは、時間がかかる高価なプロセスです。しかし、ここ何年かの間にこれを取り巻く状況が変化し、ますます多くのメソッドにキャリアガスとして水素のオプションが含まれるようになってきています。しかも、メソッドの解釈方法に関して利用できる情報が増えています。
さらに、メソッドの再検証に時間がかかることが、GCのキャリアガスをヘリウムから他のガスに変更することへの足枷となっている一方で、ファン・デームテルグラフ(図1)では、水素を利用することで非常に分析時間を短縮できることが明確に示されています。したがって、水素の使用により最終的にもたらされるワークフロー効率の著しい向上を長期的な観点で考慮すれば、検証プロセス全体を経ることは理にかなっていると言えるのです。
図1 ファン・デームテルグラフ
ラボはまた、水素ガスの爆発的な特性により、施設内で水素を生成することにおける安全性の問題を懸念しています。しかし、こうした懸念はラボ用水素発生装置を理解すれば緩和されるでしょう。つまり、発生装置により生成されるガスの量が非常に少量であるため、標準的なラボにおいて、空気比に対して水素の量が爆発的なレベルに到達するには数週間を要するのです。たとえ換気設備がない施設で、漏れが発生した場合も懸念は無用です。Peak Scientificの水素ガス発生装置には、事前警告と自己診断システムが組み込まれた高度な安全システムが標準装備されています。万が一漏れが発生した場合は、発生装置による生成が自動的に停止され、解決が必要な問題が発生したことがユーザーに通知されます。
ヘリウムに関連する不確実性により、ヘリウムの代わりに水素を使用し、便利かつ予測可能な施設設置型の水素発生装置に切り替えることで、施設をアップグレードするラボがますます増加しています。
References:
1. https://jp.wikipedia.org/wiki/Hydrogen
2. https://jp.wikipedia.org/wiki/Hydrogen_production
3. https://jp.wikipedia.org/wiki/Electrolysis_of_water
5. http://www.livescience.com/28466-hydrogen.html
6. http://education.jlab.org/itselemental/ele001.html
7. http://periodic.lanl.gov/1.shtml
8. http://www.rsc.org/periodic-table/element/1/hydrogen
9. https://jp.wikipedia.org/wiki/Proton_exchange_membrane
10. https://jp.wikipedia.org/wiki/Sun
11. http://science.nasa.gov/science-news/science-at-nasa/2011/09aug_juno3/